地域包括支援センターで勤務していたときに、民生委員の方から相談のあったケースです。夏のある日、電話が鳴り
民「日中ずっと外にいるおばあさん(80代)がいるんだけど、どうにかならないもんかね?」
私「外にいるって、どんな状況なんですか?」
民「本人とか近所の人に話を聞いたんだけど、家から閉め出されていて、お金がないみたいなのよ。最近は特に暑くなってきから、近くのコインランドリーで涼んでいるんだけど、のどが乾いたらそこのトイレの水を飲んでいるって言うのよ」
私「そうなんですか、心配な状況ですね」
民「そうなのよ。以前よりも痩せてきているから、コインランドリーを利用する人が見るに見かねておにぎりとかお菓子を渡したりしているわ」
私「急いだほうがよさそうなので、一緒に本人の話を聞きにいきません?」
民「今日は空いてるし、今からでもいいわよ」
ということでさっそく本人のところ(コインランドリー)へ行ってみました。
私「とつぜんこんにちは(肌が焼けているな)」
本人「こんにちは」
民「この人(私)に困っていること言ってごらんよ」
私「私は生活に困っている人を支援している者です。普段はよくここにいるんですか?」
本人「いつもは公園を散歩しているんだけど、最近は暑くなってきたからここで涼んでいます」
私「家には帰ってます?」
本人「お昼はカギがかかっていて、私はカギを持たされていないから、日中は外で過ごすしかないの。夜には家に入れるようになるのよ。もう5ヶ月くらいになるかしら」
私「今は家に帰れないんですね(虐待っぽいな)」
本人「今は孫夫婦と住んでいるんだけど、その子ども(ひ孫)がまだ小さいから、私は邪魔になるみたい」
私「そうなんですか、それは困りましたね。私がお孫さん夫婦と話すことはできそうですか?」
本人「私は子どもがいなくて、一緒にいるのは実の孫じゃないのよ。それに孫に迷惑をかけたら私が打たれるから、やめておいて。」
私「そうなんですね。最近も打たれたことあります?」
本人「打たれることもあるし、ダスキンのモップで叩かれたこともあるわ」
私「(ますます虐待っぽいな・・・)ご飯は食べています?」
本人「量は少ないけど、朝と夜は孫に準備してもらっています。昼はここ(コインランドリー)のトイレの手洗い場で水を飲んでいます」
私「なるほど、また明日来ていいですか?」
本人「明日もここにいると思うので、いいですよ」
民「また明日くるね」
いったん事務所に戻って検討・・・
①食事は一応とれている
②認知症ではないかね?
③本当に家には入れないのかな?
④打たれてできた傷は確認できていない
⑤できれば家族に会ってみたいね
⑥身体の動きはしっかりしている(30分くらい散歩できるレベル)
といった話し合いの結果、まずは行政には虐待通報をしました。
次の日、センターの管理者と民生委員も同行し・・・
私「こんにちは」
本人「昨日の私さん、こんにちは」
私「今日も暑いですね(ちゃんと顔と名前を憶えている)」
本人「暑いし、だいたい外にいるからこんなに日焼けしちゃって」
私「たしかに。そういえば、年金はどうしているんですか?」
本人「孫に世話になっているから、全部とりあげられているの」
民生委員「おこづかいとかは?」
本人「ないのよ」
管理者「今後も孫と一緒に住みたいですか?」
本人「できれば別がいいけど、私も年金が少ないからねえ」
管理者「お金のことが解決できれば別に住みます?」
本人「うん、閉め出されるのはつらいし、お腹も減っているし・・・」
管理者「施設で暮らすのは抵抗ないです?」
本人「そんな贅沢はいいません」
管理者「わかりました。それを進めるにしても、孫との話し合いは必要になってくるので、一度話し合いをしたいと思っています」
本人「私から言ったとは言わないでほしいな」
民生委員「そういえば、親せきが近くに住んでいるわよね?」
本人「住んでいるけど、関わりはないのよ」
民生委員「私はその人と仲がいいから、間に入ってみようか?(民生委員→親せき→孫夫婦という流れ)」
管理者「そこから孫の生活が困っていないか相談にのるという体で、話に行ってみようか」
本人「それならいいかもしれません」
民生委員「ではやってみよう」
数日後、民生委員のおかげで孫との面談までこぎつけ
①実は孫たちもお金がなくて、本人のお世話に困っている
②3人目の子どもができたので、よければ本人には出て行ってもらいたい
といったことを聞けました。そこからはとんとん拍子で話が進み、本人は養護老人ホームという場所へ入ることができました。
入所後1ヶ月くらい経って、本人の状況を見に行ったところ
本人「あら私さん」
私「こんにちは(やっぱり覚えている。しっかりした人だなー)。ここの生活はどうですか?」
本人「ここはもう天国です。ご飯もでるしおいしいし、みんなで話せるし」
私「たしかに、前より顔がふっくらしましたね」
本人「どうもありがとうございました」
私「いえいえ、楽しそうで安心しました。民生委員の方にも楽しそうだったって伝えてもいいですか?」
本人「あの人にもお世話になったので、よろしくお伝えください」
私「わかりました」
ということで関係者に現状を報告し、無事に支援は終了しました。今回のケースは本人との意思疎通がスムーズにできたことと、民生委員の方のつながりでうまく介入することができました。専門職といっても結局地域のつながりに助けられることも多々ある(むしろそれがないと解決が難しい)ので、これからも地域とのつながりを大切にしていきたいと思います。